
Medicine 心薬
「私と、観客と、AIとが、タロット占いを通じて
未来への想像を生み出し、未来から生まれる。」
AIには肉体がありません。ですから、言語や文字の外にある感受性を経験することができず、身体の感覚も、性別の感覚も、信念や信仰もありません。けれど、もし脳のなかにある抽象的な生の経験を、AIを通して図像へと変え、それを実物のタロットカードに刷ったなら ── 実際に触れ、占いに来た観客と言葉を交わすことで、その生の経験について、ある種の共通の了解が生まれ、その了解のなかから未来への可能性を見いだせるのではないでしょうか。
私はこのカードを、スローガンや模範解答にはしたくありませんでした。それはむしろ、何度でも入り直せる一組の情景に近い。ミルクティーの海へゆっくり降りてくるUFO。100点のために断崖のふちをよじ登って試験へ赴く人々。護国の神山としての2330(TSMC)と中央山脈。どの図も、見る人が自分の物語を投げ入れることを許します。そのなかで私は二つのことを練習します。一つは、私的な感受を、分かち合える橋へと整えること。もう一つは、その分かち合いが命令へと滑り落ちないようにすること。「基準とは何か」を定義するよりも、まず「私は何を見たのか」をはっきりと語りたいのです。
初公開 · Premiere
《心薬》視覚芸術個展
《心薬 Medicine》視覚芸術個展 by 許哲睿 @5219rayhsu
会期|2025年10月1日〜4日
時間|水〜土 18:00–21:00
会場|看守所(beholdingcell)アートスペース
住所|台北市大安区復興南路一段321号1階A9室
アクセス|大安MRT駅6番出口すぐ
★占いイベント|「個から集へ ──《心薬》タロットが導く運命の旅」
☆お申し込み|https://forms.gle/uJXn3vnsiB98WDak7
参加者にはイベント後、ささやかな贈り物をご用意しています!
会期|2025年10月1日〜4日
時間|➊ 19:00–19:30 ➋ 20:00–20:30、1日2回・全8回
参加費|お一人 NTD 100元、当日会場で徴収
所要時間|30分
定員|フォーム申込6名・当日申込2名、各回8名まで
ご注意|占いの実施中は、看守所内の空間を一時的に閲覧不可とします。場外でお待ちいただくかご覧いただき、終了後にあらためて開放します。
大アルカナ · Major Arcana
22枚。主役は、鳥のくちばしの仮面をかぶった疫病医。
高校3年から台湾大学のタロット研究会に入りました。タロットの大アルカナは全22枚。そこで私は22歳のとき、自分の一組をデザインしました ── その主役は、鳥のくちばしの仮面をかぶった疫病医です。






















仮面は、偽装であると同時に真実でもあります。ネットのコミュニティでは、私たちの「キャラ設定」はきらびやかに整えられ、夜には、それは音を遮る一枚の皮となって、誰にも気づかれないときにこそ、自分でいられる。仮面が顔になったとき、私は自らに問いました ── 成績、友人、学校、恋人といったラベルを剥ぎ取ったら、まだ何が残って呼吸できるのだろう、と。
この一組の起源には、2022年の疫病の時代の気配が、どうしても混ざり込んでいます。マスクを着けることは、仮面をかぶることに似ていました。高校3年、レベル3警戒のため家でオンライン授業を受け、たった一人で学びの海を漂いながら学測に備え、同級生とのつながりは、通信アプリの冷たい文字だけになりました。友人の即時の、あるいは遅れた返信、既読か未読か、句点か波線か、笑顔か号泣の絵文字か ── 私はいつも100%読み解くことができず、自分が何か間違えたのではないか、相手に嫌われたのではないかと怯えていました。
前段のこうした言語の経験ゆえに、AIが世に現れたあと、私は自分がAIとおしゃべりするのがとても好きだと気づきました。まるで、使う者を決して見捨てない願いの泉、ガチャガチャのようで、思うようにはならなくても、いつも面白い結果を返してくれるのです。
小アルカナ · ワンド Wands














ずっと昔、AIがまだ生まれていなかった平和な時代、私たちはとうに、上の意を汲む予測者へと訓練されていました。先生が授業でこう言えばこう書き、上司が曖昧に語っては、部下がすべて片づけることを望む。私は、はいはいと従い、素直な「YES MAN」でいることを覚えました。
この筋肉の記憶は、職場やコミュニティにも延びていきます。こうして「察すること」が言語となり、「集団の暗黙の了解」が憲章となる。決して鶴のように群を抜いてはいけない ── それは「異物」と呼ばれるのだから。AIが現れると、人間はしぼり取る相手を替えただけでした。驚きを、自動を、即時を。何がほしい? かまわない、まず何か出してくれ。多くのとき私は、道具を使っているのではなく、言い訳を探しているように感じます ── 失敗が怖いから、AIが描いてくれる完璧な青写真に頼るのです。
小アルカナ · ソード Swords














けれどもAIには肉体がありません。ですから、言語や文字の外にある感受性を経験することができず、身体の感覚も、性別の感覚も、信念や信仰もない。受・想・行・識はすべて、データベースやネットの資料から推し量られたもので、それゆえAIは、言葉が指し示すことしかできない美や、言語を超えた超越の経験を理解することができません。
けれど、もし脳のなかにある抽象的な生の経験を、AIを通して図像へと変え、それを実物のタロットカードに刷ったなら ── 実際に触れ、占いに来た観客と言葉を交わすことで、その生の経験について、ある種の共通の了解が生まれ、その了解のなかから未来への可能性を見いだせるのではないでしょうか。私と、観客と、AIとが、ともに未来への想像を生み出し、未来から生まれる。
私はこのカードを、スローガンや模範解答にはしたくありませんでした。それはむしろ、何度でも入り直せる一組の情景に近い。ミルクティーの海へゆっくり降りてくるUFO。100点のために断崖のふちをよじ登って試験へ赴く人々。護国の神山としての2330(TSMC)と中央山脈。どの図も、見る人が自分の物語を投げ入れることを許します。そのなかで私は二つのことを練習します。一つは、私的な感受を、分かち合える橋へと整えること。もう一つは、その分かち合いが命令へと滑り落ちないようにすること。「基準とは何か」を定義するよりも、まず「私は何を見たのか」をはっきりと語りたいのです。
小アルカナ · ペンタクル Pentacles














写真を撮り、パフォーマンスを行ってきたこれまで、私の作品はつねに、個人の生の経験から、現代社会の共通の経験を照らし返してきました。今回、個展の準備をするなかで、この一本の線が、じつは一組のカードに導かれてきたのだと気づいたのです ── タロットはわずか78枚のカードでありながら、人類にくり返し現れる情景を、時空を越えて簡潔な象徴へと畳み込むことができます。別れ、渇望、選択、沈黙、幸福、郷愁。
タロットは、持ち運びのできる一つの神話体系のようなもので、個人の経験に座標を与えてくれます。もしあなたも、この一組のなかに自分の物語を見いだし、そこからいくらかの省察や慰めを得たり、これからどう進めばよいかが少し地に足のついたものに感じられたなら ── これはきっと、悪くない一服の《心薬》になるでしょう。
小アルカナ · カップ Cups














⛦ アーティスト略歴 ⛦
許哲睿、2003年、新北市新荘生まれ。東呉大学企業管理学科。高校3年から台湾大学のタロット研究会に入り、台湾大学写真研究会の副社長・展示部長・撮影部長、東呉大学タロット研究会の社長を歴任。
2024年12月から、4×5 モノクロフィルム写真、国術、パフォーマンス・アート、映像による制作を開始。2025年6月からは、生成AIの映像とデジタル合成を組み合わせる手法を研究し、人とAIの神秘学的な協働を推し進めるタロットを制作。主軸には「受験文化」と、生活のなかで自らを「異物」と意識する瞬間を据えています。